中小企業のセキュリティ対策、何から始める?基本のチェックリスト

中小企業のセキュリティ対策、何から始める?基本のチェックリスト 対策の基本
masazan

情報処理安全確保支援士

masazan (masazan)

情報処理安全確保支援士のmasazanと申します。
サイバーセキュリティ情報をわかりやすく発信します!

~~~セキュリティの基本を体系的に学べます~~~

執筆者

「一人情シスはつらい…」その悩み、痛いほど分かります。


近年、サイバー攻撃により大きな被害を受ける企業が増えています。

中小企業では人員も予算も限られる中で、情シスは全社のセキュリティ対策をしなければなりません。


本記事ではコストをなるべくかけずに実践できるセキュリティ対策を解説します。

一人情シスが抱える5つのリアルな課題

一人情シスが抱える5つのリアルな課題

近年のDX推進や働き方改革に伴い、企業のIT化が急激に進んでいます。

しかし、経済産業省の発表した「2025年の崖」によると、2025年には43万人ものIT人材が不足すると試算されました。

参考:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~

多くの中小企業でも、人材不足によりIT関連業務を一人の担当者が担う「一人情シス」という状況が増えています。

その結果、以下の課題が発生しているのです。

課題1:業務範囲が広すぎる(何でも屋状態)

一人情シスの業務は、サーバーやネットワークの管理といった専門的なものから、PCのセットアップや社員からの問い合わせ対応といったヘルプデスク業務まで多岐にわたります。

一人の担当者がITに関する全ての事象に対応しなければならないことを意味し、日々対応に追われているのが実情です。

そのため、新しい技術、特に日々進化するサイバーセキュリティ分野で専門知識を蓄積することが困難になっています。

課題2:相談相手がいない(孤独とプレッシャー)

社内にIT関連の相談ができる同僚や上司がいないことは、一人情シスが抱える大きな精神的負担の一つです。

新しいシステムを導入する際の技術的な判断や、セキュリティインシデント発生時の対応など、全ての意思決定と責任を一人で背負わなければなりません。

この孤独な状況により、常に大きなプレッシャーとストレスにさらされているのです。

課題3:業務が評価されない(給与・待遇への不満)

ITシステムは問題なく動いていて当たり前だと思われがちです。

日々の安定運用を支える情シス業務は、成果が見えにくく正当な評価を受けにくい傾向にあります。

トラブルが起きた時だけ注目され、平時の貢献は認識されにくいのが実情です。

その結果、業務の重要性や負担の大きさが給与や待遇に反映されず、不満を感じる一因となります。

課題4:経営層の無理解(予算が確保できない)

多くの場合、経営層はITやサイバーセキュリティは専門外であり、重要性を十分に認識していません。

セキュリティ対策は、直接的な利益を生むものではないため「コスト」として捉えられがちです。

そのため、新しいセキュリティツールやサービスの導入に必要な予算を確保することが難しく、対策が後手に回る原因となります。

課題5:インシデントへの恐怖(常に不安)

セキュリティに関する専門知識が十分でない中で、日々巧妙化するサイバー攻撃のニュースに触れることは、大きな不安につながります。

「もし自社が攻撃されたらどうしよう」「情報漏洩が起きたら会社の存続に関わるかもしれない」といった恐怖は、常に担当者の心に重くのしかかるでしょう。

漠然としながらも深刻な不安が、精神を疲弊させる原因となるのです。

明日から一人でできるセキュリティ対策の進め方

一人でできるセキュリティ対策の進め方

セキュリティ対策というと、広範囲で専門的、かつ高コストなイメージがあるかもしれません。

しかし、コストをかけずに実施できる対策も数多くあります。

特にリソースが限られる一人情シスにとっては、まず基本的な領域に絞って着手することが効果的です。

具体的な進め方は以下の通りです。

STEP1:認証を固める(不正ログインを防ぐ)

サイバー攻撃の多くは盗まれたIDやパスワード、類推しやすいパスワードといった認証情報の悪用から始まります。

認証の強化はセキュリティ対策の基礎です。

デジタル庁が交付したサイバーセキュリティガイドによると、パスワードは長く、複数の文字種を組み合わせるなど、第三者が推測しにくいものにすることが推奨されています。

参考:国家サイバー統括室 インターネットの安全・安心ハンドブックVer 5.10(令和7年3月11日)

これに加えて、IDとパスワードの認証後にスマートフォンなど別の機器での確認を求めるMFA(多要素認証)を導入すれば、不正ログインのリスクを劇的に低減できるでしょう。

STEP2:端末を守る(PC・スマホの要塞化)

従業員が日常的に使用するPCやスマートフォンは、ウイルス感染や不正アクセスの入口です。

OSやソフトウェアには、日々新たな脆弱性(セキュリティ上の欠陥)が発見されており、攻撃者はその穴を狙って侵入を試みます。

ソフトウェアの提供元は、この脆弱性を修正するための更新プログラム(パッチ)を配布しているため、OSやソフトウェアを最新の状態に保つことは、防御の基本です。

また、Windowsに標準搭載されている「Microsoft Defender」のようなウイルス対策ソフトを有効にしておくだけでも、既知の脅威に対する防御力を高めることができます。

 ※そもそもウイルスとは何か、より詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。

コンピュータウイルスとは?ウイルスに感染しないための3つの対策

STEP3:通信を守る(社内・社外のネットワーク防御)

社内のWi-Fiや、社員が外出先で利用する公衆無線LANは、情報漏洩の原因となります。

特に古い暗号化方式(WEPなど)や、暗号化が設定されていないWi-Fiは、通信内容が第三者に盗み見られるリスクです。

まずは自社のWi-Fi設定を見直し、WPA2やWPA3といった強力な暗号化方式へ変更しましょう。

また、カフェなどの公衆無線LANは不特定多数のユーザが利用するため、通信を傍受されユーザIDやパスワードを盗まれたり、中間者攻撃を受けたりするおそれがあります。

公共のWifiに見せかけた悪意のある無料Wifiも増えているため、仕事では無料Wifiの利用は控えた方が良いでしょう。

どうしても利用が必要な際は、スマホのテザリングや、通信を暗号化するVPN(Virtual Private Network)という仕組みを使うことで、安全性を向上させることができます。

明日から使える!セキュリティ対策・優先度別タスクチェックリスト

セキュリティ対策・優先度別タスクチェックリスト

多くの対策を一度に行う必要はありません。

まずは「これならできそうだ」と感じるものを1つでも実行することが、大きな前進です

その第一歩を踏み出すためのタスクリストとして、ご活用ください。

【優先度:高】今すぐやるべきこと

  • すべてのサーバやシステムの管理者パスワードを見直し、強力なものに変更する
  • 社内Wi-Fiの暗号化方式が「WPA2」または「WPA3」になっているか確認する
  • 全ての業務用PCでウイルス対策ソフトが有効になっているか確認する
  • 自身の業務用PCと主要なクラウドサービスでMFA(多要素認証)を有効にする

【優先度:中】今月中にやるべきこと

  • 全社員にパスワードの定期的な変更を依頼し、MFAの設定を促す
  • 全ての業務用PCのOSやソフトウェアが、自動で最新の状態にアップデートされる設定になっているか確認する
  • 社員が外出先でフリーWi-Fiを利用する際の、簡単なルールを作成し周知する

【優先度:低】3ヶ月以内に検討すべきこと

  • 社内全体の正式なパスワードポリシーを策定し、経営層の承認を得たのち周知する
  • 主要な業務で利用しているクラウドサービス(Microsoft 365など)のセキュリティ設定を総点検する
  • 中小企業向けのVPNサービスの情報を収集し、導入を検討する

このロードマップを実践してもなお残る課題と、それを解決する外部サービス

このロードマップを実践してもなお残る課題と、それを解決する外部サービス

ここまで解説した対策は、一人情シスがコストをかけずに実施できる、効果の高いものです。

しかし、これらの基本的な対策だけでは防ぎきれないより高度な脅威も存在します。

全てのセキュリティリスクに一人で対応するには限界があることを認識し、専門的なサービスの活用を視野に入れることも重要です。

一人では不可能な「24時間365日の監視」

サイバー攻撃は業務時間外や休日を狙って行われることが少なくありません。

例えば、ランサムウェアに代表されるデータの盗難は、大量の情報を盗み出すため通信量が多くなります。

日中に通信量が増えると、業務システムの動きが遅くなるため盗難が発覚しやすくなります。

そのため、人のいない深夜に行われるケースが多いのです。

しかし、一人の担当者が24時間体制で社内ネットワークを監視することは物理的に不可能です。

常時監視やインシデントの発生を検知するためにEDR(Endpoint Detection and Response)や、専門家が監視を代行するSOC(Security Operation Center)が必要となります。

巧妙化する標的型攻撃への対策

特定の企業を狙い偽のメールを送るなどして執拗に侵入を試みる「標的型攻撃」は、ウイルス対策ソフトだけでは防ぎきれない巧妙なケースが増えています。

このような高度な攻撃に対しては、社内ネットワークの入口で不正な通信をブロックするUTM(Unified Threat Management)の導入や、専門家による定期的な脆弱性診断サービスの利用が有効です。

まとめ

「一人情シスはつらい」という状況の中、限られたリソースで全社のセキュリティを守ることは、非常に困難です。

しかし、何から手をつけていいか分からないと立ち止まっては企業をサイバー攻撃から守ることができません。

「認証を固める」「端末を守る」「通信を守る」という3つの基本的なステップから始めることで、コストをかけずともセキュリティレベルを向上させることが可能です。 

基本的な対策を実施する過程で、自社に足りない部分が明確になります。

それこそが、専門家を必要とする部分であり経営層に説得するための材料です。

まずは、基本的な対策を積み重ねて自社のセキュリティレベルを向上させていきましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました